人を殺した男が、女連れの方が見つかりにくいと云う魂胆で、日劇ダンサーの女を連れて逃げる。
男は意志が弱く、それ故に悪事しか働けない。男に愛想も尽きているのだが、離れられず、ついていくしかない女。 二人は汽車に。熱海で降りて、トラックにヒッチハイク。 不機嫌な女。 トラックはトンネルへ。 トンネルから出ると女にちょっと変化が。 やさしい顔になっている。 トンネルの中で、男がキスしたらしい。 またして次なるトンネルへ。 出てくると、今度は女は男にひっついている。ほだされていく女。 一方のほだす男の手がアップで映ると、爪の先は垢まみれ。 洒落たドンファンではない男が悲しく可笑しい…。 木下恵介の映画「女」より。男は小澤栄太郎、女は水戸光子。 ここからは、数秒の映像で人間の相矛盾する心を描く、シナリオならではの妙味を感じます。 これが小説ならば原稿用紙を何枚も使って、人間の心理の複雑さを表現することでしょう。 限られたシナリオと云う時間芸術の中で、人間の複雑さを描くには、どうすればいいのでしょう? 飽きることなく人間に興味を持って、人間を視つめることから逃げないことが大切なのだと思います。 ワイプの旨さで思い出すのは、山中貞雄の「丹下左膳余話 百万両の壺」です。 子どもなんて、でぃっ嫌いだ、と云うニヒルな大河内伝次郎の丹下左膳が、ワイプの後、子どもと手を繋いで歩いていきます。 そこからは時は進み、人は変わり、あるいは本質に戻れる、生きていくことの、ささやかだけれどステキな幸せ感が伝わります。 昨日、嫌いと思った人が、今日逢えば、嫌いと思った気持ちは失せていき、そんな風に続いていく日々。 時は進み、映像は進み、進む中でその都度、一つ一つの小さな終局を迎え、それでも依然進む中で、きっと変わられる人生を描けたなら…。
by nomelier
| 2005-04-27 20:28
| Movie
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